認知症
認知症

「同じことを何度も聞くようになった」「約束を忘れることが増えた」――ご本人やご家族がそう感じたとき、それが年齢相応のもの忘れなのか、治療や支援が必要な状態なのかを見分けることが、最初の一歩になります。
もの忘れは、年齢とともにどなたにも起こります。一方で、認知症や軽度認知障害(MCI)の始まりであることもあれば、治療によって改善する別の病気が隠れていることもあります。その原因を見定めることが、診療の出発点です。
当院は神戸市東灘区の脳神経外科として、もの忘れの原因を調べる検査から、認知症・軽度認知障害(MCI)の診断、その後の療養の支援までを行っています。神戸市の認知症検診(神戸モデル)についても、第1段階・第2段階のいずれも当院で受けていただけます。
| 加齢によるもの忘れ | 認知症によるもの忘れ | |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れる (朝食のメニューが思い出せない) |
体験そのものを忘れる (朝食を食べたこと自体を忘れる) |
| 自覚 | 忘れっぽくなったという自覚がある | 自覚が乏しいことが多い |
| ヒント | きっかけがあれば思い出せる | ヒントがあっても思い出しにくい |
| 日常生活 | 大きな支障はない | 支障が出てくる |
| 経過 | ゆっくりで、あまり進まない | 少しずつ進んでいく |
これらは認知症だけでなく、うつ病・甲状腺の病気・ビタミン不足・薬の影響・慢性硬膜下血腫・正常圧水頭症など、治療によって改善する病気が原因のこともあります。原因を確かめることに意味があるのは、このためです。
もの忘れは目立つけれども日常生活はおおむね自立している、という段階を軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)と呼びます。認知症とMCIのあいだには明確な線があるわけではなく、連続した状態です。
MCIと言われると「いずれ必ず認知症になる」と受け取られがちですが、実際の経過はさまざまです。世界89の研究をまとめた報告では、専門の外来を受診した方で認知症へ進む割合は年におよそ11%、地域にお住まいの方では年およそ6%とされ、約半数の方は数年のあいだ状態が変わらず、一部の方は正常な状態に戻っています。日本の久山町研究では、5年のうちに約31%の方が正常範囲に戻ったと報告されています。
血圧が高すぎないこと、糖尿病がないこと、握力が保たれていること、生活動作が自立していることなどが、正常に戻りやすいことと関連していました。MCIは「様子を見る段階」ではなく、できることに取り組み、定期的に確認していく段階です。
神戸市には、認知症の早期発見と、診断後の暮らしの安心をあわせて支える「認知症の人にやさしいまち『神戸モデル』」という全国で初めての制度があります。市民税に上乗せされた財源で運営されており、65歳以上の神戸市民の方は、自己負担なしで認知症の診断を受けることができます。
当院は、第1段階(認知機能検診)・第2段階(認知機能精密検査)のいずれも実施している医療機関です。第1段階で受診された方を、そのまま第2段階まで当院で担当できます。
2026年度に65歳から75歳になる方には、誕生月ごとに2回に分けて、市から受診券が届きます。お手元に届いた方は、お申し込みの必要はありません。
この年齢にあてはまらない65歳以上の方は、お申し込みいただくことで受診券が発行されます。神戸市の専用サイト(インターネット)、お電話(078-945-7431/月〜金 8:45〜17:30)、郵送・FAXのいずれでもお申し込みいただけます。受診券をなくされた場合も、同じ方法で再発行できます(およそ2週間で届きます)。
結果が「疑いなし」だった場合も、1年後にもう一度受けていただくことが勧められています。一度で終わりにせず、続けて確認していくことに意味のある検診です。
認知症ではないと判断された場合は、1年後にあらためて第1段階を受けていただきます。
第2段階で認知症と診断された方は、事前登録をすることで、次のような支援を受けられます。
行方が分からなくなったときなどのご相談は、神戸市認知症事故救済コールセンター(0120-259-315/24時間365日)で受け付けています。
神戸モデルの検診を経ずに、通常の診療の中で認知症と診断された方も、賠償責任保険とGPSサービスについては申し込むことができます。申込書を郵送で提出する方法で、診断医療機関に診断書を書いてもらう必要があります(診断書の費用はご負担いただきます)。
この既診断の方向けの申込みには期限があり、2027年3月31日までとなっています。該当される方はお早めにご検討ください。
なお見舞金制度については、事前のお申し込みは必要ありません。
「診断を受けると不利になるのではないか」と心配される方がありますが、これらの支援は診断を受けているからこそ使えるしくみです。診断は、支援につながるための入口とお考えください。
認知症は一つの病気の名前ではなく、いくつかの異なる病気がもたらす状態をまとめた呼び方です。原因となる病気によって、現れやすい症状も、薬の効き方も、気をつけるべきことも変わります。どの種類かを見きわめることが、その後の対応を大きく左右します。
最も多く、認知症全体のおよそ6割を占めます。脳にアミロイドβやタウというたんぱく質が長い時間をかけて溜まり、神経の細胞が失われていきます。新しい出来事を覚えることが難しくなるところから始まり、日付や場所があいまいになり、やがて身のまわりのことに手助けが必要になります。年単位でゆっくりと進みます。
脳梗塞や脳出血によって脳の一部が傷むことで起こります。障害された場所によって症状が異なり、「まだらな」現れ方をするのが特徴です。手足の麻痺や歩きにくさ、飲み込みにくさ、感情が抑えにくくなるといった症状を伴うことがあります。高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理と、新たな脳卒中を防ぐことが、そのまま進行の予防になります。当院は脳神経外科として、この部分を得意としています。
実際にはいないものが見える(幻視)、日によって・時間帯によって調子の波が大きい、動作が遅くなり手が震えるといったパーキンソン病に似た症状、眠っているあいだに大声を出したり暴れたりする(レム睡眠行動障害)などが特徴です。
この病気で特に大切なのは、一部の薬に対して強く反応してしまうことです。幻視や興奮に対して使われる薬の中には、レビー小体型認知症の方では体の動きを著しく悪くしてしまうものがあります。診断がついているかどうかで、安全に使える薬が変わってきます。当院はパーキンソン病外来も行っており、パーキンソン症状を伴う認知症の診療にも対応しています。
もの忘れよりも先に、性格や行動の変化が目立ちます。周囲に構わず思ったことを口にする、同じ行動を毎日決まった時間に繰り返す、万引きなど社会のルールから外れた行動をとる、言葉が出にくくなる、といった形で現れます。比較的若い年代(40〜60代)で発症することがあり、うつ病や統合失調症と間違われることも少なくありません。
次のような原因でも、認知症とよく似た症状が現れます。これらは原因を取り除くことで改善が期待できるため、最初にきちんと調べておく必要があります。
初めて受診される際は、できるだけご家族など、日ごろの様子をご存じの方とご一緒にお越しください。ご本人が気づきにくい変化を伺えることが、診断の助けになります。
| 検査 | わかること |
|---|---|
| 頭部CT | 当日中に撮影できます。慢性硬膜下血腫・脳腫瘍・脳梗塞・脳出血・水頭症などの有無を確認します |
| 頭部MRI | 海馬の萎縮の程度、細かな脳梗塞や白質の変化を詳しく確認します(連携する施設で撮影する場合があります) |
| DASC-21 | 認知機能と生活機能を、ご家族からの聞き取りで評価します |
| 長谷川式(HDS-R) | 記憶・見当識などを短時間で評価します |
| 血液検査 | 甲状腺ホルモン、ビタミンB12・葉酸、肝腎機能、血糖・脂質などを確認します |
脳血流シンチグラフィ、アミロイドPET、脳脊髄液検査など、当院で実施していない検査が必要と判断した場合は、認知症疾患医療センターなどの専門施設にご紹介いたします。東灘区内にも複数のセンターがあります。
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症には、記憶や意欲のはたらきを助けるお薬(コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬)があります。病気そのものを治すものではありませんが、症状をやわらげ、穏やかに過ごせる時間を延ばすことが期待されます。飲み薬のほか、飲み込みが難しい方には貼り薬もあります。
また、不安・不眠・興奮・幻覚といった症状に対しては、必要に応じてお薬を使うことがあります。ただしこれらの薬は、ふらつきや転倒、日中の眠気、動作の緩慢さを招くことがあり、特にレビー小体型認知症の方では慎重な選択が必要です。当院では、まず環境やかかわり方の工夫でやわらげられないかを検討し、お薬は最小限にとどめる方針をとっています。
体を動かすこと、人と関わること、生活のリズムを保つことは、認知症とともに暮らすうえで大切な要素です。
当院では通所リハビリテーションを行っています。作業療法士と言語聴覚士が、身体機能・生活機能の維持と改善を目的としたリハビリテーションを提供しています。言語聴覚士は、言葉の出にくさや飲み込みにくさにも対応します。1回1時間の短時間型で、ご負担が少なく続けやすい形をとっています。
あわせて脳活性化グループトレーニングも実施しています。担当する作業療法士は神戸大学のコグニケアでの経験を持ち、内容を工夫して行っています。参加された方からは「楽しい」というお声を多くいただいております。
なお、こうした取り組みについては、認知症の発症や進行を確実に防ぐと証明されているわけではありません。近年の大規模な研究では、運動・食事・認知活動・生活習慣病の管理を組み合わせて継続した場合に、認知機能の変化がわずかに緩やかになることが示されていますが、その差は大きなものではありませんでした。当院が通所リハビリテーションで目指しているのは、できていることを続けられる状態を保ち、可能な範囲で改善していくことです。
介護されるご家族が休息をとること(レスパイト)を主な目的とされる場合は、デイサービスのご利用のほうが適していることが多くあります。どちらが合っているかについても、ご相談ください。
アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβを脳から取り除く点滴のお薬として、レカネマブ(レケンビ)が2023年12月から、ドナネマブ(ケサンラ)が2024年11月から使えるようになりました。これまでの薬とは異なり、病気の進行そのものを遅らせることを目的とした初めての治療です。
ただし、どなたでも使えるお薬ではありません。
これらの治療は、当院では実施できません。当院の役割は、そこにたどり着くための最初の入口です。
国が示している手順でも、まずかかりつけ医や地域の医療機関が、他の病気が隠れていないかを確かめ、頭部の画像検査と認知機能の検査を行い、「アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度の認知症の可能性が高い」と判断した段階で、認知症疾患医療センターなどへ紹介する、という流れになっています。
当院ではこの一連の検査を行い、治療の対象になりそうな方を専門施設へおつなぎします。また、専門施設で治療を開始された後も、他のご病気の管理や、血液をさらさらにするお薬を使う際の注意など、地域で支える役割を担います。「新しい薬を使えないか」とお考えの方は、まず一度ご相談ください。
いずれも高額なお薬ですが、高額療養費制度の対象となります。レカネマブは2025年11月に薬価が引き下げられました。実際の負担額は、体重や所得の状況によって変わりますので、紹介先の医療機関でご確認ください。
採血だけでアルツハイマー病を調べる検査(血液バイオマーカー)は研究が急速に進んでおり、なかでもp-tau217という項目は高い精度が報告されています。海外では2025年に承認された検査もあり、日本でも承認に向けた申請が行われています。
しかし2026年7月時点で、日本において保険で受けられる血液検査はありません。診断のためにアミロイドβの蓄積を確認する方法として国が認めているのは、現在のところアミロイドPETと脳脊髄液の検査のみです。
また、ご注意いただきたいことがあります。医療機関や健診で自費で提供されている「MCIスクリーニング検査」と呼ばれる検査の多くは、上記のp-tau217やアミロイドβを測るものではなく、まったく別の項目を測定する検査です。学会の指針では、症状のない方にこうした検査を行うことは適切ではないとされています。結果の受け止め方によっては、不必要な不安を招くこともあります。気になる検査をお見かけになったときは、受ける前にご相談いただければ幸いです。
認知症は、年齢や遺伝など変えられない要因の影響を大きく受けます。「予防できる病気」と言い切ることはできません。それでも、生活の中で手を加えられる要因があることも分かってきました。
2024年に医学雑誌ランセットの委員会が発表した報告では、生涯を通じて関わる14の要因が挙げられ、これらすべてに理想的に対処できた場合、社会全体でみた認知症の約45%が先送りできる可能性があると試算されています。これは集団全体での計算であり、お一人の方のリスクが45%減るという意味ではありませんが、どこに手をつけられるかを知る手がかりになります。
| 時期 | 要因 | できること |
|---|---|---|
| 中年期 | 難聴(最も影響が大きい要因のひとつ) | 聞こえにくさを我慢せず、耳鼻科で相談し、必要なら補聴器を検討する |
| 中年期 | LDLコレステロール高値(2024年に新たに加わりました) | 健診で指摘されたら放置せず治療する |
| 中年期 | 高血圧・糖尿病・肥満 | かかりつけで継続して管理する |
| 中年期 | 頭部外傷 | 転倒を防ぐ、自転車のヘルメットを着用する |
| 中年期 | 喫煙・過度の飲酒 | 禁煙する、飲酒量を減らす |
| 中年期 | 身体不活動・うつ | 体を動かす習慣をもつ、気分の落ち込みを相談する |
| 高年期 | 社会的孤立 | 人と会う機会、役割のある場を保つ |
| 高年期 | 視力障害(2024年に新たに加わりました) | 白内障などを治療し、眼鏡を合わせる |
| 若年期 | 教育年数が短いこと | 生涯にわたって学び続ける機会をもつ |
難聴は14の要因の中で最も大きく見積もられている要因のひとつです。聞こえにくさは会話をおっくうにさせ、人と会う機会を減らし、脳への刺激を細らせていきます。
ただし「補聴器を使えば認知症が48%減る」といった説明を目にすることがありますが、これは正確ではありません。3年間の比較試験では、参加者全体では明らかな差はつきませんでした。もともと認知機能が低下しやすい条件を持つ方々に限ってみると、認知機能の低下の速さが緩やかだった、という結果です。それでも、聞こえを整えることの意義は、日々の暮らしそのものの質という点で十分に大きいと考えています。
「脳トレをすれば認知症を防げる」とは、現在の研究からは言えません。訓練した課題は上手になっても、それが日常の記憶や判断の力に広く波及することは、はっきりとは示されていないためです。
一方で、運動・食事・認知活動・血管リスクの管理を組み合わせて、続けた場合には、小さいながらも効果が示されています。ひとつのことに頼るより、いくつかを無理のない形で続けることが現実的です。
高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理は、脳卒中を防ぐと同時に、脳血管性認知症を防ぎ、アルツハイマー型認知症の進みにも関わります。当院は生活習慣病の診療も行っておりますので、もの忘れのご相談とあわせてご相談ください。
2024年1月に認知症基本法が施行され、同年12月には国の認知症施策推進基本計画が定められました。そこで示されたのが「新しい認知症観」という考え方です。
認知症になったら何もできなくなる、というとらえ方ではなく、診断された後も、できること・やりたいことを続け、住み慣れた場所で人とのつながりを保ちながら、希望をもって自分らしく暮らしていける――そのことを、ご本人やご家族だけでなく、社会全体で理解していこうという考え方です。
診察室でも、「もう終わりだ」とおっしゃる方に少なからずお会いします。しかし診断は、終わりではなく、必要な支援につながるための出発点です。神戸市の事故救済制度も、介護保険のサービスも、診断を受けているからこそ使えるものです。
もの忘れのご相談は、web予約または直接お電話にてお受けしております。神戸モデルの検診をご希望の方は、受診券をお持ちのうえお越しください。診察の際は、できるだけ日ごろの様子をご存じの方とご一緒にお越しいただけますと幸いです。お薬手帳もお持ちください。
お電話:078-856-0234